2019.01.25
映画に寄せられたコメント① 萩原 朔美さん
『よあけの焚き火』に素敵なコメントが届き始めました。
順次ご紹介いたします。
第一弾は多摩美術大学名誉教授で演出家の萩原 朔美(はぎわらさくみ)さんからのコメントです。
寺山修司主宰の劇団天井桟敷の創設メンバーとして、また祖父である萩原朔太郎を記念した前橋文学館の館長として、多彩な顔を持つ萩原さんからのメッセージ、是非お読みください!
『諦めるということは、明らかになるということだ。
この映画は、美しい澄んだ画面の連続によって、そのことを静かに伝えている。息子が家業を継承する。その行為は、他の仕事を全部諦めたことである。
家族を失った少女は過去を諦めて未来を明らかにしたのだ。
まるで主役のように登場する金魚は、一生ガラスの中から出ることがない。
その諦念が、泳ぎを優雅な揺らめきに変えるのだ。
少年は金魚の名前を「焚き火」と名付けた。
人は焚き火を囲むと歌ったり告白したりする。少年もずっと「焚き火」にむかって歌ったり会話したりして生きるのだろう。
もちろん、焚き火とは映画のことである。
映画の放つ光の揺らめきの前で、観客は静かに告白を始めるのである。
わたしもこの映画との対話によって、自分の行く末が見えてきた。
「よあけの焚き火」はそういう力を秘めた、静謐な空のような映画なのである。』
多摩美術大学名誉教授 前橋文学館館長 萩原 朔美